におい物質が鼻に届くと、嗅覚細胞が電気信号を発生し、その信号が脳へと伝達されることで、「香り」が認識されるということは過去のコラムでお話ししましたね。
では、そのような香りは、人の意識にどのように作用しているのでしょうか。
人は約400種類の嗅覚センサーを持つと言われています。
その組み合わせの可能性は無限であるため、2014年学術雑誌「Science」に掲載された研究によると、人間は1兆種類ものにおいを嗅ぎ分けることも可能だという事が明らかになっています。
そのような人間の嗅覚を利用した、「臭気判定士」という匂いを嗅ぎ分ける仕事があることを知っていますか?
臭気判定士とは、においに関する知識や分析、判定をする力を有し、悪臭に関する問題を解決する業務を担っている仕事です。
人間の嗅覚生理に関する知識、検査結果をまとめる際に不可欠な統計学、悪臭防止行政における臭気対策の知識などが幅広く必要になり、それと併せて、自身でにおいを嗅ぎ分けられる一般的な嗅覚も必要となる仕事です。
では、実際に香りが人の意識に作用しているという事を、具体的な例を挙げてお話しします。
香りは、鼻→嗅上皮→嗅細胞→嗅球→大脳辺縁系の順で約0.6秒程で脳へ到達します。
「大脳辺縁系」とは、大脳皮質内側部の領域で、帯状回、扁桃体、海馬(体)、海馬傍回等からなっていて、感情や欲求など情動に関与する事から「情動脳」とも呼ばれています。
特に扁桃体(へんとうたい)は外部からの刺激に対して「快・不快・恐怖」といった反応を起こす部位で、記憶の中枢も大脳辺縁系の「海馬(かいば)」に有って、体験や学習で得た記憶を貯蔵しています。
大脳辺縁系は、脳の中で本能的な行動や、喜怒哀楽などの感情を司る場所です。
嗅覚は、五感の中で唯一この大脳辺縁系と直接結びついています。
すなわち、「香りは本能や感情に直接作用する」といえるという事になります。
それに加えて前述の通り、香りが感知され脳(大脳辺縁系)に情報が届くスピードは大変早く、約0.6秒程と言われている事も驚愕です。
過去のコラムでお話しした「プルースト効果」もそうでしたが、嗅覚や香りが人の意識に作用する仕組みは、意外とシンプルなもののように感じませんか?
であるからして、誰かに対して自分を印象付けたい時などは、見た目に力を入れることも大切だとは思いますが、それに加え「香り」を意識することによって、自分がなりたい自分を演出することができ、その「香り」からプルースト効果を引き起こさせ、自分がそこに存在していなくても、その香りの記憶から懐かしいと感じさせたり、強く印象に残させることもできる。と言えるとは思いませんか?
「香り」を利用して人に与える影響は、楽しく、そして、ミステリアスなものですね。