人は、何かを感じることを感覚といいます。感覚には視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5種類があるので、「五感」と呼ばれています。
今回は、視覚・聴覚・嗅覚の3つを、例を出して「香り」と結びつけながらお話ししたいと思います。
例えば、緑の木の葉が風にそよいでいたとする。
その風景を見たそこに存在する人が、どのように反応してその存在を捉えるかを例に、「香り」とは何かを説明していきます。
まずは、視覚について。
緑の木の葉が太陽などの光を受けると、その光のうち緑色の光だけを反射します。それ以外の色の光は物体が吸収してしまうため、目には緑色の光だけが届きます。結果として「緑色」として視覚に認識されます。これが私たちが日ごろ目にしている色です。光とはそもそも長短様々な波長の電磁波で出来ており、色は光の一部、すなわち、「色」とは「電磁波」であることが分かります。
次に、聴覚について。
木の葉が風にそよぐと、木の葉同士が擦れ合い、空気中に小さな揺れが伝播します。その揺れは、あなたの耳で集められ、鼓膜に振動として伝わります。その振動が骨の形状によって増幅されて、電気信号に変換され、脳に届き、「カサカサした音」として認識される。つまり、「音」とは振動であることが分かります。
最後に、嗅覚についてです。
木の葉が発する匂い物質が風に乗って届くと、匂い物質は、鼻の内部にあるセンサーの役割をする粘膜(嗅裂 きゅうれつ)にキャッチされて溶け込み、感知されます。そして、嗅覚細胞が電気信号を発生し、その信号が脳へと伝達されることで、「木の葉の香り」が認識されます。つまり、「香り」は「色」や「音」とは異なり、「物質」であることがわかります。
ここまで難く視覚・聴覚・嗅覚についてお話ししましたが、ここからはもう少し砕けたお話をします。
例えば、春の木漏れ日が当たる緑の木の葉をあなたが目にした時、その風景にどのような香りを想像するでしょうか。葉が擦れ合う音、そして小鳥のさえずりが聞こえる。あなたはその音にどのような香りを想像するでしょうか。「香り」とは、確かに物質で、その物質が嗅裂にキャッチされて初めて、「香り」として脳に認識されます。
ですが、過去の記憶・想像やイメージだけでもその風景や情景の「香り」を想像できるとは思いませんか?
本当に自分が想像した香りがするのか、はたまた全く別の香りがするのか..
以前紹介したマリン系の香りなどを例に挙げるとわかりやすいと思います。
白いワンピースを着た女性が佇んでいて、そこに海風が抜けていく。
この風景の香りを想像してみてください。
女性が着ている白いワンピースの裾をふわっと海風がぬけていく。
どうですか?いい香りがしそうですよね。
そのようなイメージから作られているのが、いわゆる「マリン系」です。
このように香水とは、その香りの本当の香りよりも、その風景や情景、イメージなどから作り出されることが多いです。
視覚・聴覚・嗅覚が何か知っていることよりも、その風景や情景、そしてイメージをより深く、そして鮮明に思い描くことにより、一つ一つの「香り」を表現し、それが、香水としてこの世に残されています。
一方で、「香り」から過去の記憶・思い出を思い出すことはありませんか?
特定の香りが、それに結び付く記憶・感情を呼び起こす現象のことを、「プルースト効果」と名付けられています。「失われた時を求めて」という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出す場面があり、その描写を元に、作家の名前から、「プルースト効果」と呼ばれています。
みなさんも一度はこういった経験があるのではないでしょうか?
他にも「夏の香り」・「冬の香り」など、外の空気を吸ったときにどこか季節に重なる「香り」を感じることもあると思います。
香水とは、このようにそれぞれの感覚を通し、「香り」の世界を作り出しています。
そのように作り出された香水に、私たちユーザーの個々の思い出を重ねていくことによって、人それぞれがその「香り」に対して新たなイメージや風景などが作り出されるのかもしれないですね。
みなさんもお気に入りの香水を身に纏い、これから始まる夏の思い出を重ねながら、その香りと一緒に新たな「香り」の世界を堪能してみてはいかがでしょうか?