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【インタビュー】日本で活躍する調香師、保坂勉に迫る

2017.06.16

Scentpedia編集部

日本で調香師として活躍している、保坂 勉。
椎名林檎や中島美嘉などといったアーティスト、アントニオ猪木、魔裟斗などの著名人などのフレグランスを手掛ける他、ハウス オブ ローズの製品の香りや、アラブ首長国のフレグランスを製作したという実績も持つ。
日本で活躍する数少ない調香師の、貴重なお話を訊くことができた。

—今日はありがとうございます。早速ですが、調香師になったきっかけをお聞かせください。

保坂:僕は、学生時代に理化学を学んでいて、学校を出た後、ドイツに本社がある化学会社で、タイヤのゴムの科学技術の研究や、セールスエンジニアの仕事をしていました。その後、米国の大手化学会社に転職して、その会社の子会社に香料会社があったのですが、そこは石鹸の原料などを供給していたんですね。そこでたまたま、鼻の検査をしようとかなんとか言っていたら、鼻がいいということを見出されて、調香師としての研修にでないか、ということになったんです。調香師に興味をもったのは、この時が初めてですね。

―同じ化学を用いた職としても、それまでの仕事と調香師では、かなりギャップがありますよね。

保坂:そうですね。ですが、ずっと音楽をしていたので、相通ずるものがあるなと感じました。調香の作業は、作曲に近いような感覚ですね。

―確かに香りは、音楽とも例えられていることが多くて、調香師はアーティストとされますよね。そのあと研修に出られたということですね。

保坂:そうです。まずアメリカに行って、合成香料を扱っているオランダの工場にいって、イギリス、フランスはパリも、南フランスの方にも、最後は、天然香料でユーカリなどが有名なオーストラリアに、合計して7、8年海外を回りました。

ー調香師になる為に、とっても贅沢な研修ですね。同じように研修をされている方もいらっしゃったのですか。

保坂:調香師の卵として世界各国から10名くらい、新人が集まっていました。最初にローズや、ジャスミンや、ローズなどを嗅いでるうちはいいのですが、シベットやムスクとなってくると、結構しんどくって、やめてしまう方もいましたね。

―そんな中、ずっと研修に励んでいたので、探求心が強かったんですね。

保坂:そうですね(笑)。

ーその後は日本に戻られたんですか。

保坂:その後は日本に戻って、営業実績を重ね、東京に研究所を作る段階で、世界の二大香料メーカーのひとつ、ジボダン社から話があって。
御殿場に工場をつくるから、こないかということだったんですね、僕はそこで転職を決めたんです。

―そうだったんですね。では、そこから調香師の仕事が始まったわけですか。

保坂:実はそうでは無くて、調香師は別にいて、僕はフレグランスマネジメントの仕事に就いたんです。ユニリーバのティモテや、ラックスの石鹸のビジネスに携わりました。調香をすることはなかったのですが、英語ができたので、「パコ・ラバンヌ」を手掛けた調香師のジャン・マルテルや、海外から来た調香師などの通訳を担当して、交流をとることができたんです。

―英語も得意ということでしたね。

保坂:僕の姉が英文科で英語を学んで、アメリカ人と結婚したこともあって、英語に触れ合う機会が多かったんです。それから、米国の化学会社の社長にあたる私の上司は、最上質の英語を話していたので、とても参考になりました。
これまでに手掛けた、アントニオ猪木のフレグランス「オー デ ダー」
―その後ジボダンでしばらく務めて、独立されたのですね。

保坂:そうですね、インターナショナルの会社からの誘いもあったのですが、その頃ジャン・マルテルもジボダンをやめて、香料会社の調香師や、会社を紹介してあげるよ。ということで、海外の香料会社との代理店契約を結んで、現在の会社、ホサカオルファクティブを立ち上げました。彼がフランス人の調香師を紹介してくれたりもして、お食事しながら、新しい香料についてや、珍しい香料の使い方なども教わりました。

―調香師として独立しているということ自体もそうですが、日本でそのような経験をされている調香師は数少ないですよね。

保坂:そうだと思います。ここ30年くらいが一番調香師として仕事をしていますね。米国PFW社、ジボダン社、IPRAフランス社での経験を生かした国際的な感覚と、日本のマーケットでの経験を生かして、他社にない独特の調合香料の創作が、良い結果に継っている気がします。

―調香師という職がポピュラーではない点でも、独立して最初は大変だったのではないでしょうか。

保坂:そうですね。最初の二年は大変でした。ジボダン社をやめてすぐは、車の芳香剤などをやっている会社が仕事をくださいましたが、経営は苦しいものでした。香水ボトルの輸入販売をしているうちに、ディズニーの香水を作る仕事があったりで。

―ディズニーとのお仕事もされたんですね、キャラクターのそれぞれの香りを作るということですか。

保坂:そうですね、40種類くらい作りました。プーさんだったり、ミニーだったりの香水です。2008年くらいまでは大きな実績になりましたが、その後は伸びませんでした。

―香りって目に見えないうえに、人によって感じ方が全く違うこともありますよね。クライアントに合わせた香りを創る上で心がけていることって何ですか。

保坂:やっぱり最終的にサンプルをみてもらうことですね。ローズやベルガモットにしても種類はたくさんあります。国によって香りは違いますし、それはみてもらって決めるのが一番いいと感じています。オーガニックの精油を頼まれることも多いのですが、それらはロット間のブレがとても激しく、前回と香りが違う。というクレームの対象になることが多いんです。その点、合成香料は安価で、香りが一定です。また、オーガニック精油以外の天然香料で、香調が安定していることを確認して、シトラス系、フローラル系、スパイス系、ウッディ系の精油は合成香料との組み合わせで採用します。

―世界中で、香りに触れられていますが、それぞれの国ごとの調香師で感覚はかなり違ったりもするのではないでしょうか。

保坂:そうです。ドイツなんかだとスパイシーな香りだったり、イギリスはハーブやナチュラルな香りが多かったり、アメリカだとクリエイティブなもの、オリジナリティーがあるものが好まれますし、中近東だと、アンバーやウッディーな香りですよね。日本とフランスはバランスがとれていて、感覚が近いですね。

―仕事でフランスに行かれることも多いと思いますが、街中で香水に触れたりもされるのですか?

保坂:します。南フランスの小さい村で香水店をみたり、パリのギャラリーラファイエットや、シャンゼリゼ通りの香水専門店など。街でショッピングする人々の香りも、反応してしまいますね。あとはホテルのロビーなんかがいい香りだと素敵だなと思います。
椎名林檎のフレグランス「プール ファム」と「プール オム」


―ちなみに、お好きな香りってどのような香りですか。

保坂:うちのウォーターグリーンの香りがすきですね。アクア系の香りで、そんなに強くないんですけどね。あとはマスカットのシャルドネの香り。
香水だとシャネルの「N°19」「アリュール」や、「クロエ」などですね。

―調香師としては、いつまで働こうって決められているのですか。

保坂:鼻が効くまではしたいです。あと12、3年くらいかなと思います。音楽は、そんなに長くしていられないかもしれませんが(笑)。声がでなくなってしまいますから。

―やはり体には気を使う職ですよね。普段から色々と気を使わわれているのではないでしょうか。

保坂:やっぱり睡眠は大切です。あとは暴飲暴食はしないとか、昔はジョギングもしていましたが、今はウォーキングですね。

―Scentpediaを見ている、調香師を目指す人たちや、香りに興味を持っている人たちに向けてのお言葉があればお聞かせください。

保坂:原料になるもの、基本はしっかり学んでおくことです。嗅ぎ分けてコンビネーションの研究を重ねていくこと。最近はアロマが取り上げられますが、合成香料も使いこなせると良いと思います。天然のものは、香りのブレが激しく、金額も高いですから、香りが一定で、比較的安価な合成香料についても学ぶことです。溶解性の問題や、香りの強さ、温度もそうです。バニラ一つにしてもローズにしても種類はたくさんあります。深く知り、経験して覚えていくことが必要です。それから調香師が重要視しているのは、香料の安全性です。IFRA(国際香粧品香料協会)の安全基準に適合することです。日本を含めて、主要先進国での調香師は、自分の調香したものは全て、安全であることを証明するものであります。
自分好みの香りを調香することと、売れるものを創ることは違いますが、自分の特性を生かしてやること。香りのことだけでなく、美術や、生け花でも、絵でも、芸術に触れることも非常に大切です。偶然、いい香りが生まれることもありますが、感覚の面では才能も多少あると思います。結果として、美しい香調、美味感のあるバランスの良い香料が採用される確立が高いです。

―ありがとうございます。保坂さんはこれから、どのように仕事をしていきたいですか?

保坂:新しい原料を見つけて、新しいクリエイションに生かしたいですね。特別な合成香料や、フレーバー(主に食品に用いられる香料)の香料なども、フレグランスに使えるような処方を考えたり。今も日々面白いお話がきたりしていて、すごくワクワクしています。一生懸命協力して、いいものを作りたいですね。

―今日は沢山お話頂き、本当にありがとうございました。

保坂:ありがとうございました。

理化学を学び、化学会社で職に就いたときに、たまたま調香師としての道が開けたというのは偶然のようで、得意としてきた語学と化け学、ずっと触れてきていた音楽の世界との共通点を見出し、今でもクリエイションをし続けている様は必然の境遇のようにしか見えない。
今も毎日ワクワクしているんです。と語る姿は、調香師としてのあるべき姿を思わせるものであった。

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