「これまでの香水のあり方を変えたい」と語るトータルファッションクリエイター 山下武尊氏のブランドに密着
2018.01.17
- Scentpedia編集部
トータルファッションクリエイター 山下武尊氏が手がけるフレグランスブランド「ガーメント(GARMENT)」は、色から読み取るイメージを香りで表現するベースフレグランスと、生地やデザインを香りで表現するフレグランスフィルターを組み合わせて、香りをファッションのように楽しむことをコンセプトに作られたブランド。新たな香りとして、昨年10月に行われたサロン ド パルファンで発表されたベースフレグランス「ホワイト」と、フレグランスフィルター「デニムフィルター」が12月15日に発売。価格は、「ホワイト」が12,800円、「デニムフィルター」が、8,800円(共に税別)。今回、山下武尊氏にブランドにかける想いや、独自の香りとの向き合い方、そしてこれからの展望を訊くことができた。
—美術大学でジュエリーデザインを学んだ後、ロンドンでファッションデザインを学ばれたということですが、そこからどのように香りの世界に入っていったのでしょうか。
トータルファッションクリエイター 山下武尊氏(以下、山下):僕の母がフレグランスデザイナーだったことから、幼い頃から身の回りには常に香りがありました。ジュエリーの勉強をしていた時、留学を考えて相談したイタリア人の宝飾ブランドをやっている方が、「イタリアのジュエリー業界はすごく閉鎖的だから、入っていっても受け入れてもらえないよ。」って言われてしまって。(笑)そのままその言葉を受け入れつつも学生生活を過ごしていたのですが、洋服があって、ジュエリーがそこにあるような、トータルで見たスタイリングを考えるようになったんです。その後ファッションの勉強にロンドンへ行くと、香りとライフスタイルが密接していて専門のブティックもたくさんあり、香りとファッションの結びつきは重要だと改めて感じましたね。
—元々香りが身近だったというのはどのような環境があったのでしょうか。
山下:母が教育と香りを結びつける「香楽」というメソッドを作って、浸透させていたのですが、僕がおそらく一番「香楽」に触れた人間だと思います。香楽では香りの素材についての情報を遮断して、ナンバリングされた香りからイメージを自分の頭の中に落とし込んで香りを作ってい来ます。例えば色、風景、シチュエーション、温度、誰がいるのかなど。このように香りをイメージで観ることが当たり前だった僕は高校生の頃には、市場にあるフレグランスにも自分のイメージを持ってスタイリングに合わせるようになっていました。「ガーメント」ではフレグランスの香調を語らないスタイルをとっていますが、その理由は、ある日ナンバリングされていた香りの名前を、たまたま見てしまったことがあって。様々なイメージを持っていたその香りが、「レモン」だったんですね。それを知ってしまうと、頭の中が「レモン」以外の何物でもないようになってしまって、それが自分にとってショックだったのを覚えています。香り一つで色々な景色を観ることができるのに、素材を明かしてしまうとそれを壊してしまうし、知ってしまったところで何の意味もなかったなと思っています。
—人々が何かわからずに嗅いだ香りからもつイメージと、“ローズは華やか”などといった一般的にもたれるイメージは、マッチングするものなのでしょうか
山下:違う感覚の方もいらっしゃいますが、色の感覚と似ていて、大方筋はあっていますね。もちろん体験などによって変わってくるイメージはありますが。
—どういった方にこのブランドがハマると感じますか。
山下:ファッションで自己表現をされている方に喜んでいただけると思っています!
香水の世界はまだ日常的ではなく特別なものとなっていますが、香水のビギナーの方は、抽象的なイメージを伝えてくれるので、ガーメントのコンセプトのように香りの素材云々ではなくイメージに沿った楽しみ方をして頂けますね。一方、香りを使いこなす方には、新しい発想だ!とファッションと香りが結びついているので簡単に香りとのコーディネートが楽しめる、ファッションのこだわりの部分を香りで表現できる、などと喜びの声を多数いただいています。
また、すでにお持ちのフレグランスに「フレグランスフィルター」を合わせて使っていただくこともできるので、香水の幅を作ることができ、新たな香りを楽しめると喜んでいただけました。ターゲットが両極端なのですが、それぞれの尖っている層に楽しんでいただけると思います。
—ブランドをみてくださる方はどのくらいの年齢層の方が多いですか、
山下:30代くらいの方が多いですね。若い方もいらっしゃいますが、総じて“ファッションに感度の高い方”、“香りに興味のある方”が多いですね。
—購入ができる店舗とオンラインストアがあれば教えてください。
山下:伊勢丹新宿店本館、イセタンメンズスタイル(大阪)、公式のオンラインストアと伊勢丹のオンラインストアですね。
—それぞれ違った反応がありそうですね。
山下:そうですね。西と東でも大きく違っています。ガーメントはすべてユニセックスの香りですが、例えば男性では「マゼンタ」の香りが東京より大阪の方に反応が良かったです。大阪は華やかな装いの方が多いのでしっくりきていますね。今回新たに発売した「ホワイト」はどちらかというと女性の方の支持が多いですが、男女問わず楽しんでいただけます。
—どのような部分が自身の課題であると感じていますか。
山下:考え方がこれまでの香水の在り方を度外視しているので、香りの名前にとらわれず色やファッションをコーディネートするように自由に組み合わせて選ぶと言っても化粧品として成長してきたフレグランスにとっては急には難しいと感じますね。ただ、僕は香水の世界は、いろんなテーマを持ってそれぞれに違った香りを楽しむことが当たり前になってくると思うので、自由に香りを楽しめるような環境や、きっかけを作ることが課題になってくるかなと感じています。個人的には雑誌や媒体にしても、スタイリングの一つとしてクレジットにフレグランスの表記が加わってくるとそのページに表情が出てくるのではないかなと思います。
—フレグランスの市場の中で、自身のブランドのありたい形を教えてください。
山下:世に溢れるフレグランスの中でも一番楽しいブランドでありたいですね。とにかく体験して香りの組み合わせをファッションのように楽しんでもらいたいですね。
—これからの展望をお聞かせください。
山下:香水の知識や使い方だけが先行するのではなく、香水に対しての「新しい考え方」が浸透していけば良いなと思います。香楽の世界のように香りを楽しむことを軸に考えて始まったブランドなので、香水のフィールドがもっと自由になるようにしていけたらと思います。香水が化粧品としてのものという存在から脱却していけるように頑張りたいですね。
多摩美術大学 工芸学科 金属専攻(彫金/ジュエリーデザイン)卒業後、 ロンドン芸術大学 LONDON COLLEGE OF FASHION BA WOMENSWEAR でファッションデザインを学ぶ。帰国後、トータルファッションクリエイターとして活動を開始。 2016 年に自身の香水ブランド GARMENT を立ち上げる。 衣装制作のほか、フレグランスをはじめ、アクセサリーやライフスタイル商品などのデザイン企画、開発を手掛ける。
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